駒沢の生活史

17歳から71歳までの40名の「聞き手」が、活動をはじめています。たくさんの人々が聞き、たくさんの人々が語る“駒沢の生活史”。

今回、「駒沢の生活史プロジェクト」をすすめるのは、17歳から71歳までの40名の「聞き手」。
それぞれが駒沢に住んでいる、あるいは住んでいた誰かの話を聞き、それを1万字以内の文章にまとめていきます。公開はこのウェブサイト「駒沢こもれびマガジン」。めざすは、2025年1月スタートです。

それに先立ち、7月13日、20日に、西村佳哲さんのファシリテーションのもと、「生活史」とは? 「聞き方」は? 「生活史で大事にしたいこと」は? などを学び合う、ワークショップが行われました。読み手のみなさんにも、このプロジェクトがどうすすんでいるのかをシェアしていきますので、いっしょに見守っていきましょう。
*プロジェクトについては、「駒沢の生活史プロジェクト2024」をご覧ください。

● 7月13日・顔合わせと説明会 。どう進めるの? ●

まずはどんなメンバーが集った? ということで、1人30秒ほどの自己紹介スピーチから。
「西村佳哲です。永福町から来ています。今日は、健康です」と、こんなふう。
リズムよく、全員があっという間にひとことを伝え合い、顔合わせと声出し完了。

続いて、社会学者で作家の岸政彦さんたちが書籍『東京の生活史』で試みた、生活史のプロジェクトを、世田谷区の“駒沢”で実施するってどんなことなんだろう? 1万字の語りには何があらわれる?  と、ファシリテーターの西村さんのレクチャーに加え、メンバーのちょっとした質問も交わされながら進みます。

途中、「ここまでの話、どう聞いた?」「今の時点でどう受け止めている?」と、2人組、3人組をつくって、感想や考えを聞き合う時間が何回か。さっきとはちがう人と組みになるために、手をあげたり、声をかけあったりするので、少しずつ親しさも増していきます。

頼もしい、「生活史」経験者の存在

実はこのプロジェクトのメンバーには、『東京の生活史』『大阪の生活史』(共に筑摩書房)に参加した「聞き手」経験者が数名いました。「話を聞くときに、インタビューという言い方はした?」「話はどんな場所で聞くのが良さそう?」など、気になる疑問もその場で聞いたり相談できるという、チームワークも生まれました。



「駒沢の生活史」プロジェクトはこんなふうに、暑い暑い夏の1日にスタートをきりました。

聞き手であれ、話し手であれ、読む人たちであれ、「駒沢の生活史」プロジェクトを通じて、街の見え方や感じ方が少し変わることがあるといい。別の街で暮らしている人より、この街の人同士が読むからより面白い。ある人が、どのように生まれ育ち、周囲とかかわりながら、そこでどう生きてきたかを聞き、文章にして、同じ時代を生きる人々と共有する。<駒沢の生活史ページより一部抜粋>
これが今、試みている「駒沢の生活史」です。

● 7月20日・生活史の「聞き方」1日研修。どう聞く? ●

キックオフ説明会から1週間後。この日はファシリテーターの西村佳哲さんが、みんなの参考になればと、生活史のサンプルをつくってきてくれました(駒沢在住の方に話を聞いて)。それを参加者と共有し、「話し手」「聞き手」になる体験を交えながらのワークショップ。1日研修の中で語られたことをいくつかお伝えします。

引き出すのではなく「ついていく聞き方」

西村 生活史はその人に話してもらうのであって、その人の面白い話を引き出すとか、聞きだすとかじゃない。こちらがすることじゃなくて、その人がすることなんです。その人が自分の人生をしゃべる。主体は聞き手じゃなくて、話し手なんだということが一番大事なポイントなんじゃないかなと思います。もし、話を引き出すということを続けたら、聞き手側の好みのものになってくると思います。

その人が、これは自分の話だ、自分の話をした、ということろで終わってくれるのが一番いいわけです。だったら、「聞く」「話す」の間柄の主体はどう考えても話し手です。それを一緒にする。本人がより自分を表現する時間を一緒に作るという感じですかね。その日、その人が話したいことが形になって現れてくるといいなと思うんですよね。

私の言葉で言うと「ついていく聞き方」。その人がその人の生きてきた経験、世界の中を、こんな感じで、と話しはじめたら一緒についていく感じです。後ろから。
ついて行ってその人が見せてくれたものを一緒に体験して味わう。そうするとちゃんとその人の人生の話しになっていくんですよ。

話しはじめ、出だしの問いはどこから?

西村 私はね、答えやすい問いではじめることがいいと思うんです。いきなり「あなたの人生を話してください」は、結構大変だと思うんです。人生って、、、全部話すんですか、、、みたいになっちゃって。

その人が生きてきた経験、世界の中をその人の案内で歩いていくので、まず、歩きはじめることが大事です。その人が歩きはじめやすいのがいいですよね。言いかえれば、答えやすい問い。
○○さんのことをもっと知りたいんですという表明と、どこでお生まれになったんですかという問いでいいと思うんです。本人が話しやすいところだったり、二人の関係性がつくりやすいところだったらどこでもいいんですよね。

「どこでお生まれになったんですか」という問いは、非常にリーズナブルな問い。安いということではなくてとても適していると思います。その人の人生が見えるし、結構具体的に話せる、話しはじめやすい、ナチュラルな問いだと思います。

沈黙したら、どうする?

西村 私たちは日常の習慣として沈黙耐性が低くなっているんですよ。どうしてかというとテレビとかラジオは4秒以上の沈黙は事故なんです。特にラジオは沈黙が4秒以上続くと、電源が切れているのか、壊れているのかがわからなくなるので、ラジオ局の中では3秒以上沈黙があると自動的に音楽が流れるとかそういう機能がついているところがあります。

テレビとか見ていても、次から次へとくるでしょう。沈黙とか間がない情報社会になっている。そういうリズム感が私たちの中に染みついちゃっているので、ちょっと友人と話すとか、他愛のないやり取りのはずなのに、黙っちゃうとまずかったかなって。

それが4秒以上になるとアラートがなって、なんかニュークエスチョンを出さなくちゃという感じになったり、質問が悪かったから別の形に言い換える、みたいな先回りをはじめちゃったりする。その人に成り代わって「つまり、こうですよね」とか答えはじめると、だんだんと自分の話になってしまうんですよね。これは私たちの沈黙に対する耐性が低い状態になっているからなんですよ。

頭の中にスタンバイ状態である話はいくらでもツルツル出てくるけれど、「えっと、なんて言ったらいいのかな、、、」とわからないことは、ちょっと間がいるんですよね。で、ちょっと待ってもらえる? とか言いながらの人もいるよね。

そのときにその人が何をしているかというと、頭の中を整理しているって感じではなくて、自分の感じていることをどういう言葉で言ったらいいかなというのを、下に降りていってくみ上げるっていう作業をしているんです。そういうとき、その人はだいたい、目線がちょっと下がる。

沈黙には2種類あって、もう話し終わりましたっていう沈黙と、うーんなんだろうなという探している最中の沈黙。後者の沈黙のときは邪魔しないというのが一番なんですよね。



「聞き方の研修」の中でも、「話し手になって、聞き手の自分を見つめてみる」ワークが印象的だった1日。この先プロジェクトはどんな展開を迎えるでしょう。ここからの「駒沢の生活史」を一緒に楽しんでくださいね。

KOMAZAWA
COMOREVI
PROJECT_.
駒沢こもれびプロジェクト