インタビュー

植物が電気を生み出してくれる⁉︎ 未来を照らすボタニカルライトの謎に迫る。【インタビュー】

ボタニカルライトをご存知でしょうか? 植物の力を利用して発電するエネルギーのことで、電源がなくても植物が元気に育つ環境さえあれば電力を得ることができることから、現在注目されています。

そんなボタニカルライトの事業を行っているのが、世田谷区三宿にある株式会社グリーンディスプレイという会社です。もともとオフィスや商業施設などの空間を植物で彩る事業を手がけていた創業52年目の会社なのですが、なぜボタニカルライトを始めることになったのでしょうか? 今回はキーマンとなる株式会社グリーンディスプレイの大塚さんにお話を伺いました。

SFチックな発想から生まれたボタニカルライト

株式会社グリーンディスプレイのオフィスに入ると、緑に包まれたエントランスが現れました。そこで迎えてくれたのが、ボタニカルライトの事業を担当している大塚さんです。ボタニカルライトを生み出すきっかけになったのは、もともと働いていた植物園でのことだと言います。

株式会社グリーンディスプレイの大塚さん。ボタニカルライトの生みの親。東京湾の干潟保全の活動をしたり、イギリスの環境NGOで100年後に半原生林を戻すための活動をしたりと、ユニークな経歴を持っています。
お話を伺ったのは、株式会社グリーンディスプレイのオフィスのエントランス。植物園にやってきた⁉︎と錯覚するほど、植物に溢れていました。

「植物園は照明や空調にすごく電気を使うんです。それでいて植物は光合成を行っていて、太陽の光を受けてエネルギーに変換して成長するという、すごいことをやっています。光を合成できるんだったら、反対に光のエネルギーを生み出せるんじゃないかという、SFチックな妄想から始まりました」

植物園のマーケットを広げようと外に出た大塚さんは、株式会社グリーンディスプレイと出会います。そこで社長にボタニカルライトの妄想を語ったところ、会社も変わった人材を求めていたこともあり採用に。本格的にボタニカルライトの実現に向けて動き出しました。その頃にはアメリカやオランダでヘドロから発電するキットが販売されていましたが、ヘドロを植物が彩る公共空間に持っていくことは難しい。解決方法を探る中で出会ったのが、基盤を扱うメーカーでした。

「たまたま出会ったメーカーさんが、趣味のような形で植物の発電の実験をしていました。よくよく話を聞くと、植物発電の可能性を広げていけそうでしたし、私たちは植物の実験フィールドをいっぱい持っているので、『うちのフィールドを使って実験しませんか?』と、告白するような形で猛アッタクをしました(笑)。」

お披露目は42日間。40日間失敗が続き……

こうして国内外の文献や情報を集めながら、社内研究の場「GDラボ」にて本格的にボタニカルライトの実験を開始したのが2019年です。電力が1日も持たないほどのエネルギーしか生み出せなかったところからの出発でした。初のお披露目はMARUNOUCHI STREET PARK。2021年の夏に42日間、ボタニカルライトによるイルミネーションの実証実験を行いました。

MARUNOUCHI STREET PARKで展示したボタニカルライトのイルミネーション。

しかし42日間のうち、40日間は失敗。「つまり40回進化できたんですよね」と、大塚さんはあくまで前向きです。毎朝丸の内に向かい、失敗の原因を探りながら試行錯誤していきました。

「デビュー戦なので社名を汚すわけにもいかないですし、『やっぱりあいつ変だよ』と言われるのも悔しかったので、なんとしても点灯させ続けたいと必死でした。初日は半日くらいで消えちゃったんですけど、最後の2日でやっと1日中点灯する状態まで持っていくことができました。丸の内での経験が今のボタニカルライトの原型を作ってくれたと思います」

ボタニカルライトの実験を続けているうちに仲間とも出会っていきます。東京農業大学と協業して、学生が1年を通して発電量の高い植物を卒業論文として研究したり、いろんな企業とボタニカルライトの実験と研究を行いながら植物発電の可能性を広げる試みを重ねています。

世田谷区烏山川緑道には、世田谷福祉作業所のみなさまと協力して設置したボタニカルライトが展示されています。

なんで植物から発電するの? ボタニカルライトの仕組み

❶植物は太陽光を浴びて光合成することで、自らでんぷんを作って成長していきます。

❷作られたでんぷんの4割は根っこから放出されます。撒き餌として微生物をおびきよせて肥料とするためです。微生物の中には発電菌と呼ばれるものがいて、でんぷんを食べて分解する過程で鉄呼吸をしてマイナスの電子を放出します。

❸土に挿した電極のうち、ー極のマグネシウムから+極の備長炭へ流れる際に、電気が発生するという仕組みです。

植物のエネルギーの循環をうまく利用して発電しているので、植物からエネルギーが供給され続ける限り、発電することができる完全循環の形です。

ー極のマグネシウムは腐食しにくいように、土に触れないけれど電気エネルギーのやり取りができる特殊な塗料を塗っている。特許申請中。
蛍の光のように、点滅するボタニカルライト。まるで植物が呼吸しているように見えました。

道端の雑草も、発電量どのくらいかな? と見てしまう(笑)

例えばボタニカルライトは、災害時にも活躍する可能性を秘めています。ライトにビーコン(Bluetoothを使った情報収集・発信デバイス)をセットすることで、災害時などに携帯電話の基地局で問題があった場合、ビーコンを機能して情報発信を行えます。

「私はもう発電量でしか植物を見れなくなってしまいました。道端に生えてるような雑草も、すごく尊く感じます。植物の心地よさだけでなく機能性に注目することで、植物を通してエネルギーをどういう形でコミュニティ内に還元できるかを話ができるのもボタニカルライトの良い側面だと思います」

世田谷区の小学校で、子どもたちに出前授業

現在は太子堂小学校などで、小学生を対象とした植物発電の出張授業も行っています。ボタニカルライトの仕組みを説明する時間は寝ていた子も、実際に植物発電を目の当たりにすると目をキラキラと輝かせるそうです。

「一緒に外に出て、植物と電極を入れた土に水をかけてパッとライトがついた途端、寝ていた子が一番前に出てきて『これはどのように点くんですか?」と、とても丁寧な言葉で聞いてきて(笑)。響いたんだなとうれしかったです」

さらにボタニカルライトは備長炭とマグネシウムがあれば発電できるので、実は身近なもので電気を作ることができます。

「焼き鳥屋で使われているような備長炭と、机や椅子の足に使われているマグネシウム合金でも発電が可能です。例えば都市部で出てくる廃棄物と、里山で間伐された杉の木の備長炭を合わせて電気を作ることができます。すると日本は、電力の宝庫ともいえるすごい国になるかもしれません」

植物育成ライトの波長を入れることで、栄養を自給自足できるようなボタニカルライトも。

空気を綺麗にしたり、癒しの効果があったりするだけでも人間にとって欠かせない存在である植物から電力まで得られるとなると、植物に対する関わり方も変わっていきそうです。

植物があればスマホの充電ができる。そんな日は近い!?

「ボタニカルライトのライトが広がっていくと『植物が元気に育つにはどうすればいいのか?』を真剣に考える社会になっていくと思います。学校で『スマホ充電のために植物を大切にしましょう』と先生が話したり、ニュースでは『電力不足のためにも植物の管理を忘れずに』という情報が流れたり。ボタニカルライトには『兆し』という意味も込められています。次の何かにいくためのきっかけというものでもあるのが、ボタニカルライトです」

大塚さんの執念と周りの人たちの協力によって生まれた、未来にとんでもない恩恵をもたらしてくれるかもしれないボタニカルライト。「社長も最初は何言ってるんだという反応でしたが、今はもうブレーキをかけないで突っ走れと背中を押してくれてます」と、大塚さんは笑います。

将来的には、家で育てている植物の鉢にコンセントがついていて、そこからスマホを充電できるかもしれません。するとおのずと植物や自然を大切にしようと思う心も芽生えるかも。ボタニカルライトが未来をどう照らしてくれるのか、とても楽しみですね。

ボタニカルライトを見れる、駒沢エリア周辺の施設

太子堂小学校(要問合せ)
烏山川緑道 三宿エリア
・株式会社グリーンディスプレイショールーム(法人のみ)
渋谷ヒカリエ 4Fヒカリエデッキ
渋谷キャスト広場

photo ikuko soda
text senmi lee

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