インタビュー

〈シリーズ・待てよ⁉︎ 1回目〉そもそも、しあわせってなぁに? 前編

はじめまして、臨床心理士の宮本典子です。専門は高齢者です。駒沢が高齢者や認知症の人も暮らしやすい街になってくれるといいな、と思っています。

お話しを聞いた人・宮本典子さん

臨床心理士、公認心理師。日本瞑想協会認定suwaru瞑想コーチ

高齢者の心理を専門分野とし、スクールカウンセラーや企業のカウンセリングを行っている。カウンセリングをもっとカジュアルに利用してほしいという思いから、さまざまな場所で幅広い世代に心理臨床を試みている。駒沢在住。

<シリーズ・待てよ!? 1回目>

「待てよ!?」のコーナーは、日々の暮らしの中で当たり前と思っていることを、立ち止まって考えることをテーマにしています。第1回目は「しあわせ」。 そもそも、しあわせってなんだろう?しあわせになるためにはどうしたらいいの? 臨床心理士の宮本典子さんに、意外と難解なしあわせについて前編と後編の2回に分けて教えていただきました。

ひとことでしあわせ、と言っても、そのカタチは人それぞれ。大事なのは「しあわせを感じる力」を持っているかどうか、ということです。

しあわせを感じる力を育てましょう

これまで仕事で高齢者施設を訪れると、いつも気になることがありました。

それは同じ環境で暮らしながら、楽しそうしている人と不愉快そうにしている人、この違いは一体、どこにあるのだろう?と。
彼らと深く接していくうちに気づいたのは、笑顔が多い人はしあわせの見つけ方や感じ方が上手。それができず、物事すべてを悪く感じてしまう人は、自然と笑顔を失っていってしまうということでした。

もともとの性格や育った環境、両親の影響も多少はありますが、せっかくなら毎日を楽しく過ごせる人になりたいと思いませんか。
そのためには、若いときからしあわせを感じる力を鍛え、養っていくことを心がけましょう。

今回は、私の109歳の祖母の物語を例としてお話しさせていただきます。

まずは、しあわせ探しの名人になる。

私の祖母は、しあわせ探しの名人でした。もちろん、最初から名人だったわけではありません。

祖母は90歳で最愛の祖父を亡くし、人生で初めての一人暮らしを余儀なくされました。老いへの不安や、悲しさや淋しさで押し潰されそうな日々。どうしたら、明るい気持ちを取り戻すことができるのだろう?自分を整え、元気になるために書き始めたのが「よいこと日記」でした。
どんなに悲しいことがあった日でも1日ひとつ、嬉しかったことや感動したことを見つけ、日記に書いてから眠るようにしていました。

「今日はいいお天気だった」
「庭に花が咲いた」
「孫から電話があった」

祖母は「しあわせ探しは繰り返しているうちにだんだんと上手になり、感謝する気持ちも自然と芽生えてくるようになるの」と話していました。

私が何より驚いたのは、祖母が「よいこと日記」を誰に教わることなく編み出していたことでした。
書くことで物事を可視化し、意識を外在化することは、心理療法のアプローチとしても、しあわせを感じる力を育む意味でも重要な行為です。

1日ひとつのしあわせ探しを習慣に。

「よいこと日記」の効果は絶大でした。
施設に入ってからもベッドの窓から見える空や雲の美しさに感動し、

「曇り空もいいし、青空ならますますいい。あれこれ考えることができる自分はしあわせ」と言いながら、穏やかな晩年を過ごすことができたからです。

「気持ちが沈むときは背筋を伸ばし、しあわせを数える」
思わずハッとさせられる彼女の言葉は、しあわせであることの気づきと元気を与えてくれます。

そんな祖母を娘たちが「前向きな人は羨ましい」と揶揄したことがありました。そのときは「性格じゃありません、努力です」とピシャリ。
彼女のしあわせは、日々の努力の積み重ねから生まれたものでした。
楽しいことを見つけるクセがつくと、それが栄養となり、しあわせを感じる力がどんどん育っていきます。

幼い頃から石が好き。なぜか心が落ち着きます。家に持って帰るときは、シンパシーを感じたものを厳選して。

とは言ってもできない人は……

私のカウンセリグでも、しあわせ探しの宿題をよく活用します。最初は「難しくて、見つけられない」と悩んでいた方も、必ず何かしら見つけてくるようになります。実践しやすく効果を感じやすいのが「よいこと日記」の素晴らしいところです。
忙しい人や日記を書くのは面倒、と感じる人はスマートフォンを味方にするのもいいでしょう。1日ひとつ、心を動かされたものの写真を撮る、嬉しかった出来事をメール感覚で記録してみる。

小さな習慣は大きな力となり、未来のしあわせへと続いていきます。

10年近く前に、一番未来を生きている高齢者たちの「あったらいいな」をまとめた共編著。ドラえもんのように奇想天外で、思った以上に頭が柔らかい高齢者から学ぶことは想像以上。今回のしあわせについても、多くのヒントをいただきました。

しあわせの力を育む3つのコツ

1・1日ひとつ、楽しかったことを見つけ、日記やスマホに記す。

2・気持ちが沈むときは背筋を伸ばし、幸せを数える。

3・頭を常に柔軟に保つ。(既成概念、執着を手放す)

Q.ポジティブな人はしあわせになりやすい?

A. 一般的にはよく言われていますが、私は必ずしも、それが正解とは思っていません。写真にポジ(陽画)とネガ(陰画)があり、初めて美しい画像を写し出すように、両方をバランスよく併せ持つことが重要です。

むしろ、人はネガティブが基本。そこからしあわせになるためにさまざまな努力や方法を見つけ成長をしていきます。だから、ネガティブな人がしあわせになりにくい、ということはありません。

1日ひとつ、楽しいことを見つける「よいこと日記」は、ネガティブに傾きやすい心のバランスを整える意味でも効果的です。

Qしあわせをつかむコツってありますか?

A.年齢に関係なく、頭が柔軟な人はしあわせになる素質が高いと思います。

「いつもの坂道をゆっくり歩いていたら沈丁花の香りにフッと包まれ、なんていい香りなんだろう、と。若いときは気づかなかったしあわせを、脚が衰えたことで初めて感じることができました。できることが限られてきたからこそ新たな気づきも多くなり、その発見を至福と思えるようになりました」

この方のようにできなくなったことを悲しむより、新しい気づきを楽しむ。こういう発想の転換がスムーズにできる人がしあわせをつかみやすいと思います。

photographer Ikuko Soda text Keiko Takahashi
KOMAZAWA
COMOREVI
PROJECT_.
駒沢こもれびプロジェクト