インタビュー / 暮らし

〈シリーズ・待てよ!? 2回目〉子どもって産むべき? 〜駒沢30代独身女性の悩み〜

いまの時代は、30代で独身・出産経験がない人も多い。

わたしもそのうちのひとりだが、独身女性は誰もが一度「自分は子どもが欲しいのか? 産むべきなのか?」と悩んだことがあるのではないだろうか。年を重ねるごとに自然妊娠が難しくなっていき、35歳以上から高齢出産に分類され母子ともに負担が増していく、身体的なタイムリミットがあるからだ。

結婚の予定もないし、子どもが欲しいかどうかまだわからないけど、35歳が迫ってきているので妊娠について考えざるを得ない…。それが32歳のフリーランスのライターとして働くわたしが置かれている状況だ。特に今は欲しいと思わなくても、将来欲しいと思うかもしれない。でもその時は身体的な機能が下がっていて子どもを望めないかもしれない。だったら「いつか」ではなく「今」、結婚や妊娠についてちゃんと考えるべき? でも仕事は絶対に続けたい…。

そんな悩みから出発して、駒沢にゆかりのあるさまざまな立場の女性に話を聞いてみることにした。みんな自分の人生とどう向き合い、どんな選択をしてきたんだろう?

もしもわたしと同じような悩みを抱える人がいたならば、今回の記事を通してあなたの悩みをほんの少し照らす何かが見つかれば嬉しい。

仕事はずっと続けるつもりだから妊娠によるキャリア中断は気にしない

(Kさん・35歳・フリーランス)

Kさんは駒沢周辺に住む、クリエイティブ職のフリーランスの独身女性だ。わたしと似たような状況にいるからこそ、聞ける話があるのではないかと声をかけた。Kさんのお話にうんうんと同意する中でも、そんな考え方があるのか!となったお話がいくつかあった。

Kさんは現在、パートナーはおらず恋愛経験も少ないと言う。結婚願望は少しあるが、子どもについては、いてもいなくても楽しく過ごせるだろうと思っていたそう。だが、35歳の誕生日を迎えると心境に変化が訪れた。

「35歳から高齢出産になることは知識としては知ってたはずなんですけど、高齢出産の年齢と自分の年齢がイコールになったときに初めて『あ、子ども産まなきゃ』と思ったんです」

それまでは「子どもをどうやって育てるのか?」「仕事はどうするのか?」という現実問題にリアリティが持てず、子どもを持つ想像ができなかったが、生命体としてのリミットが迫ることによって子どもを産むことの意識が芽生えたそう。わたしと同じだった。

「子どもを産むべきか?」と悩むひとつの要因である、母親からのプレッシャーについてKさんに話すと、こんな答えが返ってきた。

「わたしも『彼氏とかいないの?』って遠回しで聞かれるときに、世の中のお母さんはほとんとが恋人ができて結婚できて子どもを産めた人だから、言葉が違う人だなとは思ってました」

その視点がなかったわたしは、お母さんの話は話半分に聞けばいいのかなと考えた。子どもを産んだおおよその人は「子どもは産んだ方がいい」と言うものだ。

わたしはKさんに同じフリーランスの立場として聞きたいことがあった。産休や育休がないフリーランスの、子どもを産んだ場合の仕事との両立についての考えだ。

「子どもを育てるとなると、わたしは働いてられないと思います。今わたしがしている仕事は年齢が関係ないし、死ぬまでできる仕事なので、出産に伴うキャリアの中断についてはそんなに気にしないかもしれないです」

これは自分のクリエイティブで仕事を開拓しているKさんだからこその答えだ。しかしフリーランスだから得られる選択肢もあるのだと、目が開かれる思いだった。自分の立場に置き換えてみると不安は大きいが…。

「もし仕事がなくなって死にそうになったら『仕事ください』って言える人が、周りにいるでしょう? だったら大丈夫です」

フリーランスになったばかりのわたしは、少し救われた気持ちになった。ともあれ、妊娠はひとりでできるものではない。「とりあえず彼氏を作ることからですね」という結論に至り、Kさんと別れた。

まずは自分がどうしたいか未婚で子どもを産んだMさんの選択

(Mさん・49歳・会社員)

駒沢で働くMさんは、中学生のお子さんを持つ未婚の母。もともと子どもが好きではなく、結婚や出産に対する焦りもなかったというMさんだが、36歳のときに妊娠が発覚。当時お付き合いしていた男性との子どもだった。

「35歳くらいのときに産婦人科を受診したら、子どもができにくい体質だと診断されたんです。特に結婚するつもりもなかったし、ショックは受けなかったんですけど、ホルモンバランスを整える薬を飲み始めたらひょっこり妊娠したんです」

彼に妊娠を伝えるとなんとも煮え切らない態度。まずは自分がどうしたいかを考えたMさんは「わたしは産みます。あとはどうするかは決めてください」と、相手に振り回される前に自分で自分の道を決めた。

彼との結婚は考えなかったのか? 聞いてみると、Mさんの実家の家業が関係していた。代々続くお寺の長女として生まれたMさんは、幼い頃から家業を継ぐにふさわしい生き方を求められた。20代後半の頃に結婚を決めた人を実家の両親に紹介するも大反対され、結婚を認めてもらえなかった。

「大好きな彼だったし、そこで心が挫けて。もう二度とあんな思いはしたくないと思ったんです」

それから「結婚」に対して未来や希望を描けなくなったMさんは、未婚の母として子どもを産む選択をし、出産に対して気持ちを向けていった。

しかし未婚のまま子どもを産もうとする女性に対して、世間は詮索をせずにはいられない。「のっぴきならない事情があるんじゃないか」と、かわいそうな人と決めつけることも。Mさんは自分の心を守るために、妊娠中はひとりの友人以外には誰とも会わなかった。

そんなふうに強く見えるMさんにも、出産後にある不安が芽生えた。

「父親がいないことに対して、子どもに後ろめたい気持ちを抱いてしまうときがあるんじゃないかと思ったんです」

妊娠中、同じく未婚の母としてたくましく生きる桐島洋子さんの本を心の支えにしていたMさんは、桐島さんの言葉を直に聞きたいと彼女が主宰するお話会に参加。その不安を本人にぶつけてみた。

「あなたが自信を持って選択をしていることであれば、何ひとつ後ろめたく思うことはないし、世の中に対しても何ひとつそんなふうに思う必要はない。ぜひ子育てを楽しんでください」

と、応えた桐島さんの言葉に、とても勇気づけられたと言う。不安を乗り越えるために、いわば大御所作家である桐島さんに会いにいったMさんの行動力に、わたしは感銘を受けた。

子どもをひとりで産む決断をしたMさんだが、決してひとりで子どもを育てたわけじゃない。

「子どもには小さい頃から父親のことを話していました。父親が必要な場面は子どもの父親が参加してくれて、彼の都合がつかない場合は誰かしらに参加してもらっていました。後から聞くと幼稚園の先生たちの間で『〇〇くんの本当のお父さんは誰だろう』って噂になってたみたいです(笑)」

ちなみに父親は子どもが生まれる前から胎児認知を行っており、現在も親子の関わりが続いている。今では両親とのわだかまりも溶け、敬老の日には親が実家の京都から駆けつけてくれたりと、子どもが寂しい思いをすることはなかった。Mさんの周りには、子どもを一緒に育ててくれる人たちがいた。それはMさんのお人柄と、築いてきた人間関係があってこそだろう。

周りの目を気にしたり、周りの意見に振り回されがちなわたしは、自分の意志で人生を進めていくMさんの強さが眩しかった。しかしそれは、Mさんが自分と向き合ったからこそ得られたものだ。そもそも「子どもを産むべきか」を悩む前に、自分の気持ちと向き合うこと、人との関係をきちんと育むことから始めるべきなんじゃないか? という疑問が、わたしの中で生まれたのだった。

子どもがいないぶん得られたのはかけがえのない出会いと経験

(Hさん・53歳・スタジオ運営)

Hさんは子どもを持たない既婚女性で、駒沢でとあるスタジオを運営している人だ。28歳のときに一度結婚し、30代前半のときに離婚。現在の夫とは30代後半で出会い、東日本大震災を機に再婚をしたと言う。2度の結婚の中で子どもを持つことは考えなかったのかというわたしの問いかけに、こう答えてくれた。

「子どもは巡り合わせでできるものだし、ひとりでできるものじゃないですよね。夫とわたしのどちらかが『絶対に欲しい』と思っていれば進めたかもしれませんが、そこまでの固い意志がお互いになかったんです」

しかし43歳のときに「これが最後かもしれない」と不妊治療のために産婦人科の門を叩いたが「うちは43歳までです」と受け入れてもらえなかった。もっと早くから調べればよかったと、反省もしたそうだ。

それから子どもがいない人生を受け止めたというHさん。すぐに受け入れることはできたのだろうか。

「自分が選んできたことの結果なので。子どもを作らなかったことに対して寂しいなと思ったときもあるけど、その分いろんな経験をして人との付き合いの幅も広がっていきました。子どもがいないことをネガティブに捉えてしまうと、自分を否定することにも繋がってしまいます。50代になってからは、そんなふうにポジティブに考えられるようになりましたね」

その心境の変化は、40代後半に自身のスタジオを立ち上げたことも大きかったそう。生活環境が変わる中で、自分がいる意味を認められるようになっていった。Hさんを紹介してくれたMさんは「Hさんのスタジオは、駒沢の人たちの居場所になってるんですよ」と教えてくれた。居場所を作っているHさんは、そこで駒沢の人たちとの関係を育んでいる。

「今は卵子凍結とか受精卵凍結とかいろんな方法があって、世の中はすごく進化してると思います。子どもを産むのは女性だし、育てるにも仕事に影響も出るだろうし、どうしても女性のリスクが大きいですよね。でも今は技術が発展して計画を立てることができるんだと思うと、ちょっと気が楽になりそうですよね」

と、子どもを産むべきか悩んでいるわたしにHさんはいろんな選択肢を教えてくれた。そしてこんな言葉も。

「子どもを産むことを考えるから重荷なのかもしれなくて、素敵な男性と恋愛をしてその先に子どもを持つかどうか考えてもいいんじゃないかな。素直にすごい素敵な人だな、この人のことを知りたいからでいいんだと思いますよ」

キラキラとした笑顔のHさんに勇気づけられる。そんな人がわたし以外にも、たくさんいるのだろう。

人においそれと話しづらいことを話してくれた3人の女性に、改めて感謝を伝えたい。それぞれのお話を聞く中で、「子どもを産むべきか?」という問いは、「なぜ子どもを産むべきとわたしは悩むのか?」という問いに変わっていった。なぜそんな悩みを持つのか、まずは自分と向き合うべきなのかもしれない。子どもを産める性としての体を、わたしはまだ持て余している。

今回は妊娠についての悩みから出発したため女性にお話を伺ったが、今後は男性の視点からも聞いていきたいと思う。いつか、あなたのお話も聞かせて欲しい。

text senmi lee

KOMAZAWA
COMOREVI
PROJECT_.
駒沢こもれびプロジェクト