“こもれび秋祭り”報告・駒沢の人気店も出張オープン! 子どもから大人までが大勢集まり、秋の1日を満喫しました!
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70種類ものメニューを取り揃えている「BOWERY KITCHEN」(以下バワリーキッチン)は、ちょっとしたグルメデパートのよう。ひとつひとつのメニューは、すべてオーナーの山本宇一さんや仲間たちとのエピソードから生まれたものばかり。そして、自ら27年間毎日、ご飯を食べに通う。バワリーは、もしかしたら宇一さんが自分のために作った食堂で、私たちはその恩恵に預かっているのかもしれない。良心的な価格、満足感のある量、居心地のいい空間、心和む接客、すべてはオーナーの優しいおもてなし。
3回に分けてお伝えしているバワリーキッチンと駒沢の四半世紀の物語。VOL.2では、メニューのこと、宇一さんのメッセージがたくさん込められた店内のこと、バワリーキッチンのこれからについてお話しを伺いました。VOL.1はこちら
彼らとは僕が28歳くらいのときに、青山にあったカルチャー最先端のレストランSARAで出会いました。さすがに、飲食店を始めるのに、1回くらい現場の経験がないとダメだろうと思い、働かせてもらった店でした。そこでみんなで意気投合、バワリーを一緒にやることになったんです。2人は当時、既に10年以上のキャリアを持ち、フレンチもやっていた敏腕シェフ。彼らがピラフやパスタを作るからおいしいわけですよね。
あるときはニューヨークで、あるときは東京で。「深夜だけど熱々のおいしいもの食べたいよね、お刺身もほしいし、ラーメンに対抗してペペロンチーノのパスタもいいね」なんてみんなで話しながら。場所を変えたり、時間を変えたりしながら、その都度食べたいものを話し合い、自分たちのスタイルに合う料理を集結させたのがバワリーのメニューです。オープンのときから、メニューはほぼ変わらず。逆に変わるきっかけがつかめないほど、渾身の思いを込めて作りました(笑)。
バワリーのメニューは家庭の献立のようなもの。ジャンルや国籍に縛られない、さまざまな料理が揃っています。だから、年齢や食の好みが違う人と一緒に来ても食べたいものが必ず見つかります。
僕の場合、バワリー、ロータス、ソータイヤードなど、自分の店以外ではほとんど外食をしません。それでも、20年以上飽きなかったんだから、たまにくるお客さんは絶対に飽きないと思いますよ。
バワリーのご飯を楽しむなら、毎回、食べたことのないものを食べたらいいと思う。ひとつひとつのメニューをつぶしていく感覚で。すべてが同じクオリティーだから、何を食べてもおいしいですよ。
実はオムライスは作るのが面倒だから、メニューには載せていなかったんです。でも、勘のいいお客さんはチキンライスがあるから「オムライスできますか?」と聞いてくるわけです。バワリーのテーマは食べたいものを作ってあげる「マンマの食堂」。お客さんに寄り添って、リクエストに応えていたら1日100食くらい出る日もあって、ちっとも隠れメニューにならなかった。
母親が岡山だったので、桃は子どもの頃からよく食べていました。桃もメロンもむいて食べるだけ。調理しないで、そのままでおいしい。フルーツってよくできていますよね。手を加えた食べ物の中でのトップはうなぎです。
ウエイトレスが注文聞いて、席まで持ってきてくれる。それでも300円。今どき、そんな店ないですよね。これでも、250円だったのを最近、値上げしたんです。
ここ、駅から遠いでしょう。そうすると、お客さんがご飯を食べてすぐに帰っちゃうと、店内が殺風景になるんです。お客さんがいるといつも混んでいるように見えるからいいな、と思って。コーヒーが食後300円なら飲みやすいから、声をかけるとみんな飲んで行ってくれるんです。
やっぱり、食べもの屋にはマスコットがいなきゃ、と思い、僕が店の片隅でノートに落書きしながら考えました。バワバワくん、言いづらい名前がまた、かわいい。衣装はコック帽とコックコート。オープン当時は、バワバワくんのソルト&ペッパーも作っていました。
よく、食後にあのサイズは食べられない、って言われています。僕もそう思うけれど、食べられちゃう人がいるからしょうがないですよね。今さらちっちゃくしたら、バワリーのケーキ何でちっちゃくなったの? って言われちゃうから。
おもしろいのは駒沢はケーキの値段を書いてないのに、聞いてくる人がほとんどいません。表参道のロータスでは、ほぼ聞かれるのに。旬のフルーツケーキは素材が高価だから、パスタと値段が同じくらいのときもあります。うちはお料理が安いから、ケーキが高く感じるかもしれませんね。
バワリーは腹ごしらえと美味しいケーキで贅沢ができる、二階建ての食堂です。
たとえば、今日はもうパパッと2時間ぐらいでご飯を、というのだったらどこでもいいけれど、自分たちの心を寄せるところって、オーナーの思いがちょっとあった方がいいよね。お客さんたちは、うちの店のそういうことろにちょっとずつ引っかかっているんだと思います。
たとえばメニューをよく見ると、パンケーキを英語でフラップジャックと書いています。でも、そんなこと誰も気づかない。ライスS,M,Lが全部300円と同じ値段、これも意外と気づかない。そのまま右下を見ると、「犬連れの場合はスペースの都合で人の数を超えないように願います」というアテンションも入っていたり(笑)。
バワリーは細かいところまで見てもらうと、おもしろいことがいっぱい発見できるんです。
テーブルの足元もステンレスだけだとつまらないと思って、赤い輪っかをわざわざつけたのに、もちろん誰も気づかない。昔のものって、よーく見ると変なところが凝っているんですよ。バワリーも今や昔になっちゃったけれど。
今のものって凝ってないっていうか、オーナーがこういうことをしたいっていう思いが、形になっているお店が少ないですね。お客さんは今これでしょう、これはお客さんに受けるでしょう、と常にお客さんファースト。主(あるじ)の誰も気づかない思いを詰め込んでいる店や物って、世の中に出にくくなっていますよね。でも、本当はこういう小さなこだわりが、居心地のよさにつながっていると思うんですよね。
お店は何日も何年もやっていて、本当にたまーに、すごくいい瞬間に出くわすことがあるんです。音楽で言うグルーヴ(高揚感)みないな。お客さんの感じ、スタッフの感じが、あちらこちらが映画のワンシーンみたいに見える。時間も季節も店内の混み具合も関係なく、本当に巡り合わせっていうかな。たまーにくるそういう空気の瞬間があるんですよ。ああ、「これこれこれっ」て。それを見たいから、僕はいつもお店にいるのかな。
バワリーでお腹を満たしたあと、カルチャーを求めてプリティに行く人もいれば、レコードを聴きながらコーヒーを味わう人もいる。お腹がいっぱいになって、カルチャーもちゃんとあると、来る人のモチベーションになりますよね。
それに、バワリー、プリティ、洋服屋と3軒店があればもう立派な街。駅から遠くてもモチベーションが3つあったら、人が来るようになるんです。
もし、お金がなくてお店出すとき、自分はカフェ、友達は洋服屋と一軒を二つに分けるといいですよ。モチベーションが2つになると、洋服も見たいからあのカフェに行こう、となる。人の足が向きにくい場所は、モチベーションやカルチャーを作ることが大事です。
【宇一さんのつぶやき】お店はね、やっぱりねオーナーと比例するんですよ。だから、まあうちの店が悪くなってきたときは僕が悪いってことでしょうね。自戒ですね。でもね、人柄って出ちゃうんですよ。
何十年もやっている老舗のレストランはありますけれど、老舗になる途中の店に出会う機会って少ないと思いませんか。バワリーキッチンは自分たちの時代にできた老舗、記憶に残る存在になれたら、と思います。たとえば、10年後に「昔からバワリーでよくご飯たべていたよね……」、なんて話しをしてもらえたらうれしいですね。
何らかの事情で駒沢を離れてしまった人たちが戻ってきたときに、「ああ、ここがあったね」と、よりどころになってもらえる場所になれたらいいですね。
27年前に自分たちの想いをすべてを形にしたので、変わる必要はないと思っています。むしろ、料金をはじめ、いろんなシチュエーションで変わらないように頑張らないと。もちろん、違う答えが出たらアップデートはしますけれど、まぁ、そういう余地ってあんまりないかな。メニューと同じで。
唯一変わるのは営業時間くらい。今は仕事も早く終わるから、そんなに遅くまで外で遊ばない。時代とともにライフスタイルは変わっていきますから。
【宇一さんのつぶやき】街が変わるのは、相続のとき。代替わりのときに相続の問題が出てきて、子どもさんたちが手放す。地価が高いと土地を細かく売るから、街の景観も変わってくるんですよね。街が変わるきっかけは、それですよ。
オープン当初、毎日夕方になると40代ぐらいのマダムがコーヒーを飲みに来ていたんです。店の前の郵便ポストに大きい犬をつないで、コーヒー飲みながら愛犬をチラチラ。犬もじーっとマダムを見ているから、「一緒へ中にどうぞ」って声をかけたんです。でもね、犬との程よい距離感が、その人の生活のスタイルなんですよね。バワリーはお客さんのいつもの生活そのままを、楽しめる場所でありたいと思っています。
【バワリーファン(50代男性・会社員)】20年ほど前、駒沢に住んでいた頃、一人で本を片手に良く訪れていました。なんか雰囲気が好きで居心地がよかったのでしょうね。今は他県にいてたまに、駒沢公園に家族と犬の散歩に来た際に訪れています。当時と雰囲気も賑わいもコーヒーの味も、何も変わってなくてとても落ち着ける場所です。
【宇一さんコメント】いい意味で不変的な店にしたかった。また、いつでも戻ってきてください。
【バワリーファン(40代女性・出版関係)】コーヒー300円、ワイン1杯500円、ライスS,M,Lが300円均一。この物価高騰中のときでも本当に良心的な価格。だから、小・中・大学生の育ち盛りの子ども3人と安心して来られます。おいしくてボリュームもあって、満足感120%。この豊かさがバワリーでしか味わえない心身のご馳走。近くに住んでいて、本当によかった。
【宇一さんコメント】うちの子はいっぱい食べるから、食費が大変っていうのは、なんか世知辛い。バワリーが家の近くにあってよかった、というのは僕も思いますよ。そういう風に思ってもらえるお店を作りたかった。
VOL.3では、バワリーと駒沢の人たちとの信頼関係、世代を超えて愛されている理由、コロナ禍でのエピソードなどをお伝えします。最終回もお楽しみに! VOL.1はこちら
2023年10月20日に還暦を迎えた山本宇一さん。還暦の誕生日会の代わりに、表参道のロータスで自身の60年の回顧展を発案。子どもの頃の写真や好きだったもの、バワリーキッチンの企画書や手書きのノート、ニューヨークでのスケッチなどが展示されています。自ら額装も手がけるなど、ほほえましい展覧会となっています。宇一さんの人柄を知ると、店への愛着もますます深くなっていきます。ぜひ、足を運んでみてください。2024年10月20日まで開催予定。lotus_omotesando
カフェカルチャーの先駆者であり、駒沢になくてはならない人。プロデュースした店は約70軒。現在、は東京・駒沢に「BOWERY KITCHEN」(1997年)と「PRETTY THINGS」(2013年)、表参道に「LOTUS」(2000年)、尾山台に「SO TIRED」(2023年)。加えて今年、2022年に惜しまれつつ閉店した「montoak」の跡地で藤原ヒロシさんとニューショップをオープン予定。
BOWERY KITCHEN(バワリーキッチン)東京都世田谷区駒沢5-18-7 TEL.03-3704-9880
営業時間:11:00~23:00 (金・土11:00〜24:00)
http://www.heads-west.com/shop/bowery-kitchen.html
photographer :Wakana Baba
text:Keiko Takahashi