“こもれび秋祭り”報告・駒沢の人気店も出張オープン! 子どもから大人までが大勢集まり、秋の1日を満喫しました!
- こもれびスタジオ
- こもれび記者
- 駒沢こもれびプロジェクト
駒沢の食堂として27年。「BOWERY KITCHEN」(以下バワリーキッチン)は近所の住民にとっては、そこにあるのが当たり前。店の前を通るとき、今日のバワリーはどうかな?と、つい中をのぞいてみたくなる、そんな身近な存在です。週末は国内のみならず、海外からもファンが訪れ、四半世紀たった今でもバワリー詣では健在。
いつの時代も粋で新鮮、カルチャーの発信地であり続けるバワリー。オーナーの山本宇一さんは、バワリーをこう語ります。
「トレンドもブームも関係ない。何もかもが普通で特別な店。僕は、今も毎日ここに通いコーヒーを飲み、食事をしています」
27年前、宇一さんがジャーンと一発鳴らした不協和音は、いつの間にかこの地に調和しながら今も駒沢公園をバックに流れ続けています。
バワリーキッチンと駒沢の街の四半世紀の物語。最終回のVOL.3では宇一さんが駒沢の人たちやお客さんに寄せる想い、バワリー流のフレンドリーなサービスについて教えてもらいました。
駒沢はニューヨークで言うと、イーストリバーを渡ったブルックリンの街とよく似ています。セントラルで暮らす人とは違う価値観を持った人たちが多く、地元をこよなく愛し、ご当地ブランドを作っちゃうような。僕はイーストリバーが環七だと思い、駒沢をコマックリンと呼んでいるんですけどね(笑)。コマーシャルなどのマスだけでは満足できない独自の価値観を持つ人たちが、自然と集まるエリア。おそらく、環七を超えたところに、こんなにアーティストやクリエイターが住んでいる街って、そんなにないと思います。
駒沢に暮らす人はおおらかだし、気持ちのいい人が多いですね。どんな変化球を投げても、すっぽ抜けずにちゃんと受け取ってくれます。価値観や感度が高いんだと思います。駒沢は、この2つを軸として人が集まっているから若い人、ミドル、シニアと世代の混ざり方のバランスもいいんですね。
独自の価値観を持ったアウトロー的な人っていうのかな。そういう人たちが家族できて、そのお子さんも大人になると友だちやボーイフレンド、自分の子どもを連れてきてくれる。いつの間にか親子3代で、という方も増えました。バワリーはまだ、僕1代で頑張っていますが(笑)。
おこがましいですけれど、ビートルズの音楽は今聴いても古くないですよね。シンプルだから、飽きずに聴き続けられているんです。バワリーもそういう感じなんだと思います。それに、ここにくるお客さんは年齢に関わらず、常に、ご自身をアップデートしている人が多い。お店はある意味、お客さんと働いている人でつくり上げるもの。いくら空間をおしゃれに仕立てても、中にいる人たちが普通だったら、お店も普通になっちゃう。バワリーは、いつの時代もお客さんとスタッフの鮮度と感度がいいんです。
自分も含め、よーく考えてみてると1年間に10回行くレストランなんてあまりないんですよ。だから、お客さんは、1年間で10回行ったら自分は常連だと思っていますよね。でもね、店員は毎日くる人がいたら、そっちが常連だと思います。うちの子たちには「常連は店ではなく、お客さんが決めるもの」と言っています。
オープン当時からバワリーは月に10回くらいきちゃう人が、いっぱいいるんです。今となっては笑い話しですが、うちは昔、「常連お断り」って看板を書こうとしていたんです。新しい人が全然、入れないから。もちろん、どちらも大事ですよ。現に、常連はお断りしていたんですが、それで怒った人は誰もいませんでした。うちのお客さんは本当に懐が深いんです。感謝しかありません。
何しろ、ここには僕の知り合いがいっぱいきます。自分の友だちがきて、気づいてもらえなかったら寂しいじゃないですか。スタッフの心がけとしては、話しかけないと分からない。もし、気づかなかったら大変なことになりますからね。その点では、そんじょそこらの厳しさじゃないから必死ですよ(笑)。僕に負けないようにみんなで力を合わせて、っていうのが、うちのスキームなんですよ。それに、ここで働いていてお客さんと話しをしなかったら、仕事もつまらないですよ。僕の友だちは優しいから。うちの子たちには「全部持ってっていいぞ」て言っているからね、みんな仲良くなりますよ。
【宇一さんのつぶやき】昔、バワリーで働いていた人がお客できていたり、小さい頃からお客さんできていた人が働いたり。その境目がないのも、うちらしいところかもしれません。
恋人同士の関係もそうだけれど、嫌われないように、嫌われないように、としていると大抵見透かされて嫌われるんですよね。本当に好かれている人は、好かれたいと思ってやっているわけじゃないんです。
お店のサービスも同じです。普通、店はお客さんに嫌われないように接しますが、うちは逆。お客さんが店に嫌われたくないと思ってくれる。というのは「この時間やっているのはバワリーしかないじゃない」、「バワリーへ行けなくなったら、どこでご飯食べたらいいの?」と頼りにしてくれる人が多いから。その代わり僕らは、台風やコロナ禍のどんなにつらいときでもお店を開けているし、久しぶりにきたお客さんの顔も覚えているます。これがうちのサービスで、お客さんもちゃんとわかってくれている。こういう“いい循環”が、27年かけてお客さんとお店で育まれてきたのだと思います。
【宇一さんのつぶやき】うちミーティングのない会社なんです。ときどき、奥のテーブルで僕を囲んでスタッフと話しているのはただの立ち話しです。立っているのは、単に椅子が足らず、座る場所がないから。スタッフが怒られているわけではありません(笑)。
まぁ、大体僕らの世代は大人がこうって言ったら、逆に大人の言ったこと信じないっていうのが子どものときに教わった生き方だから。大人がお酒を出すなって言ったら、じゃあ出そうかな、と(笑)。それに、駒沢の人たちはちゃんと自分で考えて行動するから、そういう人たちは来てくれましたね。
コロナの時期、飲食の人たちは、政府に振り回されてものすごく傷ついていたと思います。やっぱり大人の言うことを聞かなくてよかったです。
おもしろいことを言っていたら、おじいちゃんでも、おばあちゃんでも“つまらない大人”にはなりません。これも子どもの頃に教わったこと(笑)。
僕の場合、自分で考えて自分で決めるっていうのはね、この場所もそうだし、メニューや値段もそう。いきなり、誰かの言った通りにはできないですよね。今まで、なかなかそういう生き方や習慣がなかったので。僕は、すべてが自分基準です。
コロナのとき、街によっては夜8時過ぎまで営業をしていると住民が怒鳴り込んできたり、苦情を言ってきたり大変だったそうです。うちは文句も言われず、やり過ごしてもらった。そういう寛大さが、さすが駒沢だな、と。逆に皆さん、普段はいろんなお店を開拓したり、新しいお店へ行ったりしていますが、「こういうときこそ、知っているお店や顔の見える好きなお店を応援しなきゃ」と。遠くからわざわざきてくれた人も多く、本当にうれしかったですね。
ここで働いている子たちはいつもよくやっていて、素晴らしいですね。昔は僕もホールとして働いていたから、大変さが分かります。何十年もずっときてくれるお客さんも偉いな、と。偉いなんて言ったらおこがましいけど。みんな、自分の信じることを一生懸命やっていていいなと、思います。
ちなみに、カフェとしてとらえると「27年もやっているの⁉︎」となるけれど、レストランとしては、この年数は普通です。
駒沢ではありませんが、もうすぐ表参道の「モントーク」の跡地を、藤原ヒロシくんと再オープンさせる予定です。詳細はまだ秘密ですが、お楽しみに。
【宇一さんのつぶやき】バワリーがある駒沢公園通りは、畳屋や時計屋、建具屋さんなど、お商売をやっていた家が多い。1階の店の奥の小上がりを上がるとテレビとちゃぶ台があって、「ごめんください」とお客さんくると、「はーい」と出ていくスタイル。家と店が繋がっているから、間取りを変えないと貸しにくいんです。だから、物件も出にくいんだと思います。
ロンドンも好きですが、何が起きてるのかがちゃんと把握できるのがニューヨークのいいところですね。
【宇一さんのつぶやき】駒沢は公園ががんばっているから廃れないですよ。公園があるっていうのは、すごいことですよ。公園ってね、儲けようとしてないでしょう。だからみんな大好きなんですよ。儲けようとしている人って、好きなときと好きじゃないときがあるからね。買いたいものがあるときはしょうがないから行くけれど、そうでないと自然と足が遠のきますよね。
お客さんもスタッフもバワリーという船に乗り合わせて、降りる人もいれば、新しく乗ってくる人もいる。同じ船に乗り合わせて、時代を共に進んで行く仲間のような。
ただ、これだけ長くやっていると、お店にきていた人が亡くなったりすると、やっぱり辛いし、寂しいですね。お店はずっと定点で、自分の親戚や友人が増えていくようなもの。いろんな人の人生の中で、楽しいときや辛いときも一緒ですからね。
大体、ちゃんと仕事するのが嫌な人がこういう飲食とか始めるでしょう。会社員みたいに一生懸命仕事した人は65歳で終わるのに、僕らはその後も働かなきゃいけない(笑)。楽しめるうちはねやるけど。継いでいってくれる若い人やパワーのある人って出るときと出ないときがあって、当たるも八卦。そういう人が、現れてやっていくといいですよね。バワリーもさることながら、ストリートやカルチャーをちゃんと、引き継いで。やっぱり、お店って街の顔役だからね。
【バワリーファン(30代女性)】学生のときによく来ていました。駒沢公園のイベントに来た帰りにバワリーを思い出し、20年近くぶりに寄ってみました。メニューも雰囲気もお値段もその頃とほとんど変わっていなくて、懐かしかった。でも、ちっとも古さを感じさせない。こんなふうに心のよりどころになれるお店って、なかなかない気がします。また、近いうちに来たくなりました。
【バワリーファン(40代女性・カフェ経営)】15年ほど前、まだ恋人だった夫のバイクに乗って、深夜にバワリーへ行くのが楽しみでした。上京したばかりの私にとって、バワリーは華々しい都心の店とは一線を画す、さりげない日常を感じられるセンスのいいお店でした。結婚後、子連れでご飯を食べに行ったとき、宇一さんが気さくに話しかけてくださったんです。息子の名前を聞いて「いい名前だね」と言っていただけたことがとてもうれしかったです。
【宇一さんコメント】お客さんは、なかなか口には出してくれないけれど、いろいろなことを感じながらお店にきてくれるのですね。いつもそれを忘れないようにしていたいです。ありがとうございます!
3回にわたってお送りしてきた、バワリーキッチンと駒沢の四半世紀の物語。3時間ものロングインタビューの質問ひとつひとつに、ていねいに答えてくれた山本宇一さん。そのリラックスした雰囲気とバワリー愛をお伝えできたら、うれしく思います。
何より、自分が行きたい店を作り、27年間通い続けている宇一さんこそが、バワリーのいちばんの常連でした。
2023年10月20日に還暦を迎えた山本宇一さん。還暦の誕生日会の代わりに、表参道のロータスで自身の60年の回顧展を発案。子どもの頃の写真や好きだったもの、バワリーキッチンの企画書や手書きのノート、ニューヨークでのスケッチなどが展示されています。自ら額装も手がけるなど、ほほえましい展覧会となっています。宇一さんの人柄を知ると、店への愛着もますます深くなっていきます。ぜひ、足を運んでみてください。2024年10月20日まで開催予定。lotus_omotesando
カフェカルチャーの先駆者であり、駒沢になくてはならない人。プロデュースした店は約70軒。現在、は東京・駒沢に「BOWERY KITCHEN」(1997年)と「PRETTY THINGS」(2013年)、表参道に「LOTUS」(2000年)、尾山台に「SO TIRED」(2023年)。加えて今年、2022年に惜しまれつつ閉店した「montoak」の跡地で藤原ヒロシさんとニューショップをオープン予定。
BOWERY KITCHEN(バワリーキッチン)東京都世田谷区駒沢5-18-7 TEL.03-3704-9880
営業時間:11:00~23:00 (金・土11:00〜24:00)
http://www.heads-west.com/shop/bowery-kitchen.html
photographer :Wakana Baba
text:Keiko Takahashi